A. アニメーテッドラーニングとは
アニメーテッドラーニング(Animated Learning)は、アニメーションの制作と発表を通じて学習とコミュニケーションを深めて学習者のさまざまな能力を引き出し、自信や積極性を育むことを目指しています。
アニメーションを学習のツールとする
学習者の考える力、多角的・多面的に分析・評価する力、表現する力、他者への共感・思いやり、対話する力、協調する力、利害の対立を越えて問題を解決する力、主体的・能動的に取り組む意欲、さらに創造性や個性的能力などを育成することが期待されます。
これは知識の一方的な伝達でなく、学習者が能動的・主体的・協同的に探求し自らの社会的な課題を解決につなげようとする学び方で、アクティブ・ラーニングの一種です。
アニメーションをコミュニケーション(対話)のツールとする
学習者を文字偏重から解放する。創造的で多様なコミュニケーション(対話)を通じて自己理解力、自己肯定感・自信や達成感を養成します。
また、ディスレクシア(読字障害、読み書き障害)を持つ人、そのほかの学習障害を持つ人などの可能性を広げるでしょう。
B. アクティブ・ラーニングとしてのアニメーション
アクティブ・ラーニングは「主体的・対話的で深い学び」として、平成29・30年改訂学習指導要領(小学校:2020年度~ 中学校:2021年度~ 高等学校:2022年度~)で授業の改善に取り入れられ、多様な学習形態が考案、実践されようとしています。
その中で、ドラマ技法やロールプレイといった演劇的手法が一部の教育関係者に注目され、市井でもメディアリテラシーとして映画教育の取り組みが増えてきました。
ドラマ技法は、1)あるものに「なって」現実とフィクションとの往還を可能とする点で、複眼的な見方を育てる力をもっている、2)身体表現とのかかわりが深く、活動的で感性豊かな学習をつくり出すことができる、3)共同して創り上げる学習活動であることから、学習者相互のコミュニケーションを促進する働きがあるとされる、とされています(宮崎充治監修、獲得型教育研究会編著「授業で使えるドラマ技法&アクティビティ50」より抜粋)。
アニメーテッドラーニングは、ドラマ技法の特色を引き受けるとともに、アニメーションならではの利点を持ちます。
役者として、絵やオブジェクトを通じて、物語(アニメーション)に参加する
アニメーションの創作では「一人ロールプレイング」もできるし、学習者全員がキャラクターに動きをつけることで、それぞれが役者として参加する。
監督として、客観的に物語を俯瞰しつつ、物語(アニメーション)をつくり上げる
撮影中でも、監督である「もう一人の自分」が課題を客観的に確認しながら、「伝えたいコト」をアニメーションに置き換えて発表・配信できる。
役者と監督の両役割は、いかなる学習者も担うことができ、演劇や実写映画だけでは得られない学びの効果が期待でできます。
C. アニメーションだからできること <7つの効果>
1.アニメーションはマジック
アニメーションは時間軸を持ち、モノ・コトの変化を言葉だけに頼らず、視覚的に表現する。アニメーションは現実には存在しない/見られないモノ・コトを無限に表現できる “マジック”である。
2.知識・情報、アイデアを物語へ
アニメーションはストーリーテリング(物語を伝える)。物語は人の心を動かし、提案者のアイデアや提案内容への共感を生む。
3.コミュニケーションと自己肯定感
アニメーションの発表・配信は外向性、コミュニケーション力を育み、コミュニケーションは自分と他者との関係を円滑する。また、アニメーション完成という目標を達成することで、自信と自己肯定感を引き出す。
4.自分と異なる人との協働
アニメーテッドラーニングは独りではなく、多くの場合2名以上のグループでおこなう。学習者がさまざまな知恵や関心事を持ち寄り、知識や情報を誰かへ伝える工夫をしながら、異なる意見を聞き、利害の対立を御し、協調する協働を習う。
5.ICT、デジタルツールとリテラシー、ニューメラシー
アニメーション制作は基礎力(言語・数量・情報スキル)、表現力、創造力を培う。また、インターネット(ICT)とデジタルツールを活用しながら、異なる意見を持つ人たち、離れた所にいる人たちとも活動できる。
6.体と五感を使った観察
アニメーションで何かを伝えるには、対象観察や調査・考察が必須。観察には全身と五感を使い、キャラクターの動きや気持ちを感じ取り、その体験を元にキャラクターに動きをつける。
7.グローバルな視点とリンク
学習者が「伝えたいコト」を置き換えるアニメーションは、言葉だけに頼らず、言葉が通じない相手にも通じる視覚表現であるため、アニメーションを発表・発信することはグローバルなリンクを生む。発表・発信のふりかえりからも次の課題を見つけることで、限られた学習空間を超えた上昇スパイラル(アニメーテッドラーニングのプラス・スパイラル)となる。
D. アニメーテッドラーニングのプラス・スパイラルとスペシャルワールド
- アニメーテッドラーニングは、ひとつの課題やその解決を新たな課題や学習テーマへつなげるフレームワークとライフサイクルを持ちます。
アニメーテッドラーニングのフレームワークとスペシャルワールドの概念
アニメーテッドラーニングのプラス・スパイラル
アニメーテッドラーニングは<スペシャルワールド>
ひとりひとりの楽しい創造的空間を大事にします。
E. デンマークのアニメーテッドラーニング
- デンマークのアニメーテッドラーニングは、デンマークの中央ユラン地域(ユトランド半島中央部)の古都ヴィボーにあるアニメーション・ワークショップ(The Animation Workshop、以下TAW 注記*)の一部門であるALL(Animated Learning Lab、オール)で興りました。
一般社団法人アニメーテッドラーニングらぼはTAWのALLと提携し、日本型のアニメーテッドラーニングを開発し、その普及に努めています。- 注記* 国立総合大学VIA University Collegeに属するTAWは、ヨーロッパ有数のアニメーションとグラフィック・ストーリーテリング(漫画)のトレーニングセンターとして、教育、文化、ビジネスに関わる諸活動をおこなう国立機関です。
- ALLはアニメーションを学習のツール、コミュニケーション(対話)のツールとして用いる教育法・学習法の開発で20年以上の実績を持ち、アニメーションの創作と発表を学校の一般教科教材として活用され、社会活動などでも広がるように努めています。
ALLとアニメーテッドラーニングらぼが重視する、3つのファクター
- アニメーションをコミュニケーション(対話)のツールとして捉えるということ。教師・指導者から学習者へ一方的に知識が伝達する受動的な授業ではなく、アニメーションを制作し、発表することを通じて、学習者が能動的に参加し、それによって学習者の創造性を引き出すことが重要である。
- iPad/タブレット、スマートフォン、ノートパソコンなどの身近なデジタル機器や技術を使い、無料のソフトウェアとアプリを用いて、「導入」、「行動」(「スペシャルワールド」と呼ばれる創造的世界の制作)、そして「結末」からなる活動として、人に伝わる「物語=アニメーション」を作り、発表・発信すること。
- 導入とは、教師・指導者が課題(授業のトピック)を提示すること。
- 行動とは、学習者が課題をもとにオリジナルのストーリーを作ること。学習者はまず教師・指導者が与えた課題を学び、その概観を理解し、そこで残された疑問を問い直し、話しあい、改良を重ねる。そのうえで、アニメーションをデザインし、音楽をつける。言い換えれば、学習者がどのようにその課題を理解したのかをアニメーションというメディアを使って視覚化し、語らせる。
- 結末として、創作物を鑑賞し、何がよいのか、ストーリーはどうか、課題はどのように取り上げられているのか、次回作/次のプロジェクトに向けて改善すべき点は何かなど、互いに率直に意見を出し合う。
- 教師・指導者の役割は、徹底して学習者のビジョンを支持し、寛容な心で学習者自身に考えさせ、その意見、感情、理解を引き出すことにある。
- 特に重要なのは、チームを組むということ。それによりアニメーション作りで、相手に説明し、説得し、議論しながら自発的にトピックを深め、同時に教師・指導者からの情報、知識では得られなかった独自の問題提起、思考を育む力を身につける。
- 学校教師だけでなく、プロのアニメーター、さまざまな分野の研究者、アーティストなど、それぞれの専門家とタッグを組んで進める。
- 経験の三層レベルとして、(1)教師、子ども・学習者、ファシリテーター、専門家、研究者らと共に行う実践ワークショップ、(2)それぞれの専門知を共有し、コラボレーションを行うことで新しい知を創出するための実践や評価を行うクラスター・コミュニティ、(3)ALL、自治体・行政、学校、研究機関、経済界・財団など、アニメーテッドラーニングの場を設定していく諸組織間の連携。
- こうした三層からなる教育システムから社会そのものを良い方向へ変容させていく。
経験の三層レベルとして、(1)教師、子ども・学習者、ファシリテーター、専門家、研究者らと共に行う実践ワークショップ、(2)それぞれの専門知を共有し、コラボレーションを行うことで新しい知を創出するための実践や評価を行うクラスター・コミュニティ、(3)ALL、自治体・行政、学校、研究機関、経済界・財団など、アニメーテッドラーニングの場を設定していく諸組織間の連携。
こうした三層からなる教育システムから社会そのものを良い方向へ変容させていく。
アニメーテッドラーニングは「教育」のイメージを変革する
- デンマークの公共教育の現場では、初等教育(日本の小学・中学校に相当)の教師・指導者が学習者の顕在化した能力、潜在的な能力の発達を促すメソッドとしてのアニメーテッドラーニングの効果を実感しています。
- アニメーテッドラーニングのこれまでの道のりは、「教育」のイメージそのものをラディカルに変革する挑戦でもありました。
- ALLを設立し、デンマークのアニメーテッドラーニングを推進してきた、ハンネ・ペールセン(Hanne Pedersen)は言います:
- アニメーテッドラーニングでは、学習者がやる気を出し、デシジョン・メーカーとして授業、アニメーションつくりに率先して参加することを第一義です。それには教育のイメージ変革も必要です。
- そのためには、
- 教師・指導者や大人が創造的でなければならない。
- 教師・指導者や大人がアニメーテッドラーニングを理解し、さまざまな専門家、諸機関とのコラボレーションが重要である。
- なぜなら、アニメーション制作には硬直した考え方を解きほぐし、世界を見るための新しい視点を獲得できる多くの仕掛けがある。多様な人々と協働しながらアニメーションをつくることは、自らの世界を更新し、他者の視点とともに世界と出会い直すことである。また、アニメーションを見る目も大きく変えてくれる。
- つまり、アニメーテッドラーニングにより学習者は「消費者」ではなく、「生産者」の視点から世界を捉え直すこととなる。
「E. デンマークのアニメーテッドラーニング」は、2017年8月一般社団法人日本動画協会「アニメNEXT_100」アニメーション教育分科会が開催した「アニメイク・キッズサマージャンボリー2017」でALLのディレクター、ハンネ・ペールセン氏とプロジェクト・コーディネーター、ラウラ・イーザクスン氏が講演し、コミュニケーション・コーディネーターとして参加した筑波大学人文社会系の清水知子准教授がまとめた講演内容より抜粋編集しました。
F. 大学生がアニメーションでNPOキャンペーンを応援
- デンマークのアニメーション・ワークショップ(The Animation Workshop)の大学生が、NPO法人のさまざまなソーシャルメディアキャンペーンにアニメーションを提供した習作を紹介します。
- アニメーションはエンタテインメントだけではなく、社会的なメッセージを誰にでもわかりやすく伝えるツールとして活用できます。